DenchuLab.2019 作品紹介 |嘉 春佳

嘉 春佳 「 日常の帰る場所 

EPSON MFP image※画像はイメージです。

家を出て家に帰ることに始まり、私たちの日常が繰り返される家には、生活や暮らしの気配が蓄積される。私たちが着ている衣服には、日々の記憶や痕跡が残される。
旧平櫛田中邸の2階に自由に入ることができるこたつを設置する。近隣に暮らす人々から集めた古着を縫い合わせたこたつ布団を作り、同時代に過ごされたそれぞれの日常の断片を繋ぎ合わせる。

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嘉 春佳 Haruka YOSHI

筑波大学芸術専門学群総合造形領域卒業。現在 東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修士課程在籍。
https://www.tomohiroshibuki.com/

 

「 ふく守りをつくる 」ワークショップ

2月22日(土)、29日(土) 14:00~16:00 
各日 定員7名 予約優先
ご予約はこちら! →  予約フォーム

誰かの来ていた服のハギレから、お守りのような「ふく守り」を作って持ち帰れるワークショップです。
「日常」はいろんな人たちの生活の偶然の掛け合わせによって成り立っています。
このワークショップでは、普段は別々の生活を送る人々が同じ場に集まるという偶然の掛け合わせの空間で一緒にお守りを編み、参加者それぞれの日常に持ち帰ってもらいます。

DenchuLab.2019 作品紹介 |澁木 智宏

澁木 智宏 「 頃日ただ眺め 

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※画像はイメージです。

田中邸に流れる時間(現在/過去/未来)に思いを馳せ、作品制作の糧とする。 建物のあちらこちらにある「傷」や「しみ」などの痕跡、 それらはそこにあった営みの残像のようなものだ。 それをつけたものは平櫛田中氏のものか、それとも家族? または友人?それとも… 答え探しが目的ではなく、田中邸という空間に身を委ね、 無限に広げられる想像の中で自分に問いかける行為を表現したいと考えている。
本展示の作品の一つでは、邸宅にある痕跡をイメージソースとして、そこで行われたであろう営み(想像し選び取った内容)を 羊毛の立体作品で表現する。

澁木智宏プロフィール画像

 

澁木 智宏 Tomohiro SHIBUKI

北海道小樽市出身。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。
https://www.tomohiroshibuki.com/

 

「 裾を眺めいる 」ワークショップ

2月23日(日)、24日(月・祝) 14:00~15:30
各日 定員10名 予約優先
ご予約はこちら! →  予約フォーム

澁木さんの作品は建物にある「傷」や「しみ」などの痕跡を手掛かりに、そこにあったであろう営みを想像し、空間に身を委ね、現在/過去/未来に思いを馳せながら作られています。
今回の「裾を眺めいる」は、参加者の皆さんにも建物を内をじっくり見て感じて貰い、そこから「あったかもしれない営み」を想像し、その場でストーリーを作ります。

DenchuLab.2019 作品紹介 |大谷 陽一郎

大谷 陽一郎 「  計に景  」

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田中邸はその構造において多くのグリッドを有する。特に田中がアトリエとして使用した部屋では、本棚に取り付けられたいくつかのガラス扉が、グリッドのパターンに従いながら壁面の大部分を覆う。

この本棚のガラス扉のグリッドを、デザインソフト上でオブジェクトを配置する際の目安線に見立て、無数の漢字をレイアウトした作品を制作する。田中の膨大な蔵書から抽出した漢字を媒介とし、この地域の木々を取り込み、森を描くことで、アトリエ空間を一冊の詩集とする。

※画像はイメージです。

大谷陽一郎プロフィール

 

大谷 陽一郎 Yoichiro OTANI

桑沢デザイン研究所卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。現在、同大学院博士後期課程在籍。https://www.instagram.com/yoichiro_otani/

DenchuLab.2019 アーティスト決定!

この度は、多くの方にデンチュウラボにご応募いただき、誠にありがとうございました。
審査員による1次審査(書類選考)と二次審査(プレゼンテーション)を経て、今年度は3名のアーティストが選出されました。

【DenchuLab.2019 アーティスト】
 大谷 陽一郎 Yoichiro OTANI
 澁木 智宏 Tomohiro SHIBUKI
 嘉 春佳 Haruka YOSHI
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写真)左から 澁木智宏、嘉春佳、大谷陽一郎

【作品展示】
 2020年2月21日(金)ー3月1日(日) 11:00-17:00

選考で特にポイントとなったのは、田中邸と作品との関係性についてアーティスト独自の視点から思考を深められているか、アーティスト自身にとっても新たな挑戦となっているか、また、田中邸で行う必然性があるかという点です。
多くの方にご関心をお寄せいただき、ありがとうございました。

1月からいよいよ田中邸での制作がスタートします。
3名のアーティストがどのように田中邸と向きあい、どのような光景が広がるのか、
ぜひお楽しみにお待ちくださいませ。

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大谷陽一郎プロフィール

 

大谷 陽一郎 Yoichiro OTANI
桑沢デザイン研究所卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。2017年に作品集「雨」(リトルモア刊)を出版し、アーティスト活動を本格化。漢字が持つ意味性や精神性に着目し、制作活動を行う。主な受賞にJAGDA学生グランプリ、IAG奨励賞、サロン・ド・プランタン賞など。現在、同大学院博士後期課程在籍。

https://www.instagram.com/yoichiro_otani/

澁木智宏プロフィール画像

 

澁木 智宏 Tomohiro SHIBUKI
北海道小樽市出身。武蔵野美術大学卒業。主に羊毛を素材に用いて、制作活動を行う。  人と物との関係性や日常の裾の方に広がる物事に目を向け、「存在とは何か」「その物に宿る記憶」を探求しつつ、立体作品を中心に視覚と触覚に働きかける作品を制作する

https://www.tomohiroshibuki.com/

yoshi

 

嘉 春佳 Haruka YOSHI
茨城県生まれ。2019年 筑波大学芸術専門学群総合造形領域卒業。現在 東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修士課程在籍。最近の主な活動に「中之条ビエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭秋会期SOKOLABO」展示参加など。金網に毛糸を編み込み〈意識としての他者との境界〉を表す立体作品の他、個人の生活の記憶や痕跡を残す古着を用いて〈記録されない日常の蓄積とそのゆくえ〉を想起させるインスタレーション作品を制作する。

https://h27yoshi.wixsite.com/harukayoshi

 

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DenchuLab(デンチュウラボ)は、日本の近代彫刻を拓いた彫刻家・平櫛田中の旧居兼アトリエである旧平櫛田中邸(きゅうひらくしでんちゅうてい) を、アートを通じて地域・世界の人々と再生し、新たな創作と交流の場として育てていく活動の一環として、アーティストの制作・発表を応援する事業です。

ジャンル・経験不問の新たな表現活動を募集!

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旧平櫛田中邸(きゅうひらくしでんちゅうてい)のアトリエを再び、新たな創作・交流の場に。

DenchuLab.(デンチュウラボ)は、まだ形になっていない表現や作品アイデアを試す研究・発表の場です。ジャンル・経験不問の新たな表現活動を募集します。上野谷中地域で多彩な活動を展開するでんちゅうずが、日本の近代木工を拓いた彫刻家・平櫛田中の精神を受け継ぎ、あなたの創作をサポートします。DenchuLab.は地域住民の協働・交流を生み出し、地域資源の魅力が旧平櫛田中邸に息づくようなきっかけとなることを目指しています。

旧平櫛田中邸を活かした、意欲的な企画を募集します。
総額10万円を上限に、制作費を支援します。

募集期間 : 2019年11月10日(日)*当日必着

[制作期間] 1月7日(火)~2月20日(木)
[一般公開期間] 2月21日(金)~3月1日(日 )

▶︎応募要項
▶︎会場図面
▶︎プロポーザル記入用紙.pdf (PDF)
▶︎プロポーザル記入用紙.xlsx (エクセル)
▶︎エントリー用紙.pdf (PDF)
▶︎エントリー用紙.xlsx (エクセル)

《募集内容》

旧平櫛田中邸の空間および、周辺の地域環境を活かした作品制作、展示、活動企画、特定のジャンルにとらわれない表現者の意欲的な活動を募集します。

《採択者数》

若干名(不採択となった場合でも、フォローアップ制度により支援が受けられる場合があります。詳しくは要項をご覧ください。)

《対象者》

旧平櫛田中邸の空間を活かし、魅力あふれる芸術文化活動を企画・提案する個人及び団体
申請は1組1件までとします。

《対象となる制作・活動企画の条件》

・一般公開期間中に何らかのかたちで発表を行うこと
・展示、ライブパフォーマンス、公開制作、ワークショップ、勉強会など、発表形態は自由
・旧平櫛田中邸のリサーチを通じて建物の新たな魅力を引き出し、空間と呼応した発表を行うこと
・旧平櫛田中邸を拠点として人と人との新たな関係性を引き出す活動を行うこと

[制作期間] 1月7日(火)~2月20日(木)
[一般公開期間] 2月21日(金)~3月1日(日 )

《選考委員》

小沢剛(美術家/ 東京藝術大学教授)
熊倉純子(アートプロデューサー /東京藝術大学教授)
椎原晶子(都市環境研究家/NPO たいとう歴史都市研究会理事長)
富塚絵美(アートディレクター/一般社団法人 谷中のおかって理事)

《審査基準》

(1)実現性 制作体制や実施体制が整っている。活動規模やがスケジュールが妥当であること。
(2)独創性 
アーティストが独自の表現を追求することの中に、普遍的な価値が見出せること。他分野との恊働を通じて、芸術の新しい価値創造を目指している。
(3)将来性 
長期的展望があり、今後の活躍や発展が期待されること。

《審査のながれ》

提出された必要書類を精査し、一次審査(書類審査)をおこなう。一次審査通過者は、二次審査として選考委員に向けたプレゼンテーションをおこなう。

11月下旬        一次審査   書類審査

12月8日(予定)      二次審査   プレゼンテーション(※非公開)

12月上旬        結果発表

《主催者によるサポート》

(1)制作・活動費総額10万円(上限)の支援。
※選考の結果複数組選ばれた場合、審査員の審議に基づき金額を分配することがある。
(2)制作・活動場所の提供(旧平櫛田中邸)
(3)展示・発表会場の提供(旧平櫛田中邸)
(4)企画内容の相談、地域・市民との連携をサポート。
(5)展示・発表の広報協力(美術関連施設、ギャラリーへ展示DM配送 / ウェブサイトへ情報掲載)
(6)アーカイブ(作品やワークショップの様子を記録撮影)

《フォローアップ制度について》

不採択となった場合でも、審査により、今後の飛躍が期待できる作品制作・活動企画をサポートするフォローアップ制度があります。主催者によるサポートとして、企画内容の相談、地域・市民との連携サポート、発表の広報協力、アーカイブ(活動の様子を記録撮影)が受けられます。制作費の支援はありません。制作・発表会場となる(旧平櫛田中邸)の使用範囲や期間、使い方については、本採択となったアーティストと協議の上調整となります。

《会場》

旧平櫛田中邸(東京都台東区上野桜木2-20-3)
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▶︎旧平櫛田中邸について  http://taireki.com/hirakushi/

制作展示場所に関する留意事項

・本採択者が複数となった場合、また、フォローアップ制度による採択があった場合は、制作・発表場所について調整を行うことがある。
・ 常設展示として使用できる範囲は、原則、表庭、母屋2階、アトリエ棟1階を基本とする。その他の場所の使用については、受付スペースなどを考慮の上、企画内容に応じて相談・調整を行うことができる。

《アクセス》

JR線 日暮里駅南口より徒歩10分
JR線 鶯谷駅北口より徒歩10分
JR線 上野駅公園口より日暮里方面へ徒歩20分
東京メトロ千代田線 根津駅1番出口より徒歩15分

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《応募方法》

下記、必要書類を郵送または、メールにて提出してください。

※メールの場合、2日以内に受領のご連絡をいたします。メールが届かない場合は、お問
合せください。
提出先メールアドレス:dencyu@taireki.com

①エントリー用紙(応募者連絡先、活動歴)

▶︎エントリー用紙.pdf (PDF)
▶︎エントリー用紙.xlsx (エクセル)

②プロポーザル 記入用紙(タイトル・趣旨・具体的なプラン)

▶︎プロポーザル記入用紙.pdf (PDF)
▶︎プロポーザル記入用紙.xlsx (エクセル)

提出先・お問い合わせ

〒110-0002 東京都台東区上野桜木2-20-3
一般社団法人 谷中のおかって DenchuLab.募集係
TEL= 080-4342-8215
MAIL=dencyu@taireki.com
※件名に〈DenchuLab.企画提出〉と明記の上、お送りください。

《応募受付〆切》

2019年11月10日(日) 当日必着

主催:でんちゅうず( NPOたいとう歴史都市研究会、一般社団法人 谷中のおかって)
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
協力:井原市、平櫛弘子氏、東桜木町会

DenchuLab.2018 トーク:臼井仁美 × 田瀬理夫 × 椎原晶子

DenchuLab.2018採択企画
臼井仁美「ここに 暮らす木、通う人 where trees grow, where people come.」
創作と生活の場が同居する旧平櫛田中邸に、しんと混ざり合う緑の植物。2018年度DenchuLab.(デンチュウラボ)参加アーティストの臼井仁美さんは、古い木材で構成される田中邸を「森」ととらえ、人間の営みと植物がそっと寄り添う作品展示を手掛けました。

展示最終日に、臼井仁美さん、造園家で株式会社プランタゴ代表の田瀬理夫さん、デンチュウラボ審査員でNPOたいとう歴史都市研究会理事長の椎原晶子さんを迎え、トークイベントを行いました。

それぞれ違うフィールドで活躍する3人の視点から交わされた示唆に富んだトークをご紹介します。

■DenchuLab.とはどんな企画?

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(左から)司会者、臼井、田瀬、椎原

司会者:

臼井仁美さんによる展示「ここに 暮らす木、通う人」は、アーティストの新しい創作活動を応援するデンチュウラボという公募企画の制作発表展となっています。デンチュウラボとは、旧平櫛田中邸の空間および、周辺の地域環境を活かした作品制作、展示、活動企画といった特定のジャンルにとらわれない表現者の意欲的な活動を募集し、審査員によって選出されたアーティストが約一か月半田中邸に滞在しながら制作を行っていただくというものです。

本企画は、たいとう歴史都市研究会と谷中のおかってというアートマネジメントチームが一緒に「でんちゅうず」という名前で主催しています。でんちゅうずはアーティストと一緒に企画に向き合いながら、広報だけでなく地域のネットワークを紹介するといった、地域資源や人々とアーティストの創作と繋ぐような提案とサポートをさせていただいています。

開催第4回目を迎えた今年度は、審査員にたいとう歴史都市研究会理事長の椎原晶子さん、美術家の小沢剛さん、東京藝術大学教授でアートプロデューサーの熊倉純子さん、谷中のおかって理事の冨塚絵美さんを迎え、書類審査とプレゼン審査を経て臼井仁美さんが選ばれました。

臼井さんは1月上旬から田中邸に足を運び、ご自身の創作と田中邸に向き合いながら今回の展示を準備されました。では早速ですが、臼井さんから今回の展示と作品についてお話していただきたいと思います。

 

■頭の中であたためていたアイデアを試行錯誤した一か月半

臼井:

私は、大学の工芸科で漆と木工、その素材や技術、道具と作品制作について学びました。卒業後は、人がものを作ることへの原点に興味が遡っていき、木材となる前の樹木としての植物や、それらと人間の原初的な関わりに着目するようになり現在に至ります。具体的には、それまでは製材された木を購入して制作いたのですが、自ら森の中に入って素材となる枝などを採取したり拾ったりして制作しています。

このデンチュウラボの企画では初めて、植物と二酸化炭素についてのテーマを作品化しました。また、押し花と同じ方法で標本化した植物を扱ったのも初めてでした。

今回の展示は、大きく2つの構成に分かれています。まずは、田中邸アトリエの作品です。タイトルを「通う人のラボ、またはCO2を固定する家屋について考える部屋」としました。木は二酸化炭素を吸収しながら成長していくのですが、伐採されて材木にされても二酸化炭素を保持し続けるそうです。燃えたり朽ちるときになって初めて、それまで吸収した分の二酸化炭素を放出するという話を大学時代に聞き、ずっと頭の中に残っていました。この家に使われている木は、100年ほど前に木材へと形を変え、平櫛田中邸として二酸化炭素を固定し続けています。森が二酸化炭素を固定するものだとして、田中邸も家屋の形をした森なのではないかと考えました。 アトリエは二酸化炭素を可視化した田中邸という名の森で、この棚はその森の入り口です。風船を用いて二酸化炭素の可視化を試みています。また、ロープと葉で樹木を再構成したのですが、樹木の幹として使われているロープは、木から作られる材料であり、その姿は本来の木からかけ離れてしまっています。すでに木としての姿・機能は失われていますが、それでも繰り返される新たな植物の誕生を表しています。植物と二酸化炭素と人間についてのテーマの作品化は私にとって初めての試みですので、引き続き作品としてどうしたいのか、考察し続けるための場所でもあります。

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〈通う人のLab.またはCO2を固定する家屋について考えるための部屋〉
植物、風船、ロープ(2019)

もう一つは、植物から多大に影響を受けている人間の生活、かつてはもっと親しかったであろう人間と植物の関係をテーマにしています。葉をじっくり観察することで、人間の生活道具の多くは植物の形や特性から生まれたものなんだろうなということを読み取ることができました。襟やカーテン、テーブルクロスといった作品は、そのような考えから制作に至ったものです。また、この田中邸は演劇の公演会場としてもよく使われると伺って、架空の舞台「松野原」の舞台道具をイメージした作品も制作しました。最後に、2階の床の間の作品も新しい試みのなか生まれました。素材となった植物は、椎原さんのご紹介で谷中の興禅寺さんというお寺の敷地で採取させていただいたものです。そのときに、企画を主催するでんちゅうずの皆さんや友人、椎原さんと一緒に採取したのですが、誰かと一緒に材料を集めるというのは初めてでした。その協働作業の感触をもとに、制作した作品になります。

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〈舞台 松野原〉大王松、2019

 

■制作のきっかけと広がりをもたらす田中邸という空間

臼井:

今回の展示では田中邸と植物から制作のきっかけをもらっています。作品もこの建物に紛れ込むような形で存在させ、植物があるという空気を作品にしたいという思いがありました。

椎原:

臼井さんが色んないろんなお家やお寺さんを訪ね歩きながらだんだんと構想を重ねていき、ここ(田中邸)の中に世界を作っていくのを折々拝見させていただいて。 田中邸との折り合いというか、対話をされているんだなという姿を感じさせていただきました。

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谷中にある興禅寺の庭で採取した植物を、田中邸で乾燥させている様子

司会者:

今年度のデンチュウラボは過去最多の応募がありまして、選考が困難を極めたと伺っています。椎原さんはデンチュウラボの審査員を務めていらっしゃるのですが、その中で臼井さんを選出された理由を聞かせていただきたいです。

椎原:

面白くて素晴らしい提案がたくさんあったのですけれども、田中邸に滞在することによって、田中邸で何かが生みだされて、その何かが成長していくという流れと可能性を臼井さんのプランから一番感じました。あとは、田中邸の建物だけでなく、上野桜木にある自然や地域とのつながりが活かされる要素が垣間見えまして、臼井さんにお願いしたという次第です。

司会者:

田瀬先生は、田中邸も臼井さんの作品も今日初めてご覧になったということですが、どんな感想を抱かれましたか。

田瀬:

ここに初めて足を踏み入れたとき、平櫛田中先生とその家族の暮らしぶりを想像してみました。小さいけれど、何とも豊かな楽しい空間だったのではないかなと。創作の場と住居が一緒になっているお家なので、長い時間を田中邸で過ごしていると、外に目が向くと思うんですね。庭とか裏にある谷中霊園とか。しばらくここの住民になってものをつくると考えたときに、ここから出て探して植物を採ってという臼井さんの制作プロセスが、この空間にいるからこそ導き出される行為だったんじゃないかと感じました。

僕は、東京藝術大学でしばらく非常勤をしていたときに、キャンパスの植物の貧弱さが気になっていて。せっかく藝大で絵を描いたりするときにスケッチするものがないじゃないかと思っていたんです。それと似通った感覚を臼井さんの作品にも見て取れて、環境だけでなく空間から生まれる眼差しがあるのだと改めて気づかされました。

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母屋のサンルームに展示された臼井の作品と、ガラス戸越しに見える中庭

〈テーブルクロス〉ヒカゲカズラ、2019

 

■「建材砂漠」の中で薄れていくありのままの自然

司会者:

実は、今日田瀬先生にお越しいただくことになったのは、臼井さんきってのご希望があったからなんです。植生とランドスケープの観点からまちに人の居場所をつくるという田瀬先生のお考えと、人と植物がそっと寄り添う関係を形にする臼井さんの活動は、どこかリンクする部分があるなと思っています。臼井さんが田瀬先生にお話を聞きたいと思った理由を改めて教えていただけますか。

臼井:

「葉」という素材ををじっくり見るきっかけになった出来事がありまして。藝大上野キャンパスの間を通る道路に面した場所に、武蔵野の植生を取り戻す「藝大ヘッジ」という取り組みがあるのですが、本当に色んな植物が植えられているんです。学校にいくときは大体急いで行かないといけないんですけど、あそこを通ると植物についている名札をつい見たくなるし、急いでるのに困ったなぁみたいなことになります。(笑)そこで初めて、葉っぱの形やその多様さに気づかされたんです。今回の展示もその気づきの延長線上にあると言えます。そして、その藝大ヘッジを田瀬さんが手掛けられていると椎原さんから伺って、ぜひお話してみたいと思いました。

田瀬:

ありがとうございます。話にあった藝大ヘッジというのは、キャンパスのフェンスの外側にできるだけたくさんの植物を植えようという活動です。植物があると葉っぱが落ちて、土の中が多様になっていくんですね。そこに虫がきたり、鳥がきたり、変化が重なっていくんです。コンクリートやガラスだとそういうことにはならない。

僕は、東京で生まれて東京で育って60数年経ったんですけど、子供のころにあった原っぱというものはほとんどなくなってしまった。林や畑もなくなって、アスファルトとコンクリートだけの東京半径60キロ以内を「建材砂漠」と呼んでいます。そんな、植物と生物の種類が少ない環境にいると、外をみても面白くない。だから逆に建物の中に閉じこもって、その中にだけ面白いもの、きれいなものが溢れていっていると。そんなことを考えたときに、臼井さんの作品は、この建材砂漠の中でどうしていくのか?かつて身近にあった自然はどこへいったのか?という疑問を思い出させる表現だと思いました。

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田瀬理夫さん

 

■上野のお山と田中邸という「森」を受け継いでいく

椎原:

建材砂漠とまではいきませんが、田中邸が位置する上野もかつての姿とは違う地になりました。もともと上野のお山の一部で、原生林があったそうです。それが江戸時代には、お寺をつくるために平にされました。明治になると博物館や藝大が建てられて、そのことからわかるように今日の上野は人間の営みで造成されてきた地なんです。私が藝大に通っていたころはそれでも、管理されていない原っぱがまだ校内のあちこちにありました。そこには色んな草が生えていましたし、しゃがみこんでいる人がいるなと思ったら日本画の学生さんが丹念に葉っぱを描いていたり、そういう光景があったんですけども。最近奏楽堂や図書館も建って、キャンパスの中の植物の多様性もここ20年で失われてきたなと感じています。

そんな中、「田中邸は森である」という臼井さんのプランを審査で伺ったときに、「確かにそうだな」と思うと同時に上野のお山と同じく守っていくべき空間なんだと再認識することになりました。木造建築は修繕すれば100年でも200年でも持つので、「森」としてあり続けることができる。上野のお山は変わってきていますが、木造建築を守ることもまた、「森」を受け継ぐことなんだと。そのようにして、変わらないみんなの想いを上手に繋いでいくことはできるのではないでしょうか。

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田瀬先生や椎原さんのお話を聞いていると、アーティストが田中邸を拠点に創作活動を行うこと自体が、色んな方向に影響と発見を与えてくれるのだと気づかされます。植物と人間の関係をテーマにする臼井さんのお話を手始めに、建材砂漠となっている都会の乏しい自然環境や緑豊かだったかつての上野の風景まで、なかなか聞くことのできない貴重なお話ですね。

 

これからのデンチュウラボに期待すること

司会者:

最後に、今回の臼井さんの活動もふまえて、これからデンチュウラボと田中邸がどのような可能性を開いていく場になるのかご意見いただければ幸いです。

田瀬:

「平櫛田中になりきる」ことができるまたとない機会だと思います。それはつまり、創作することと暮らすことを一緒に考える空間を独占できるということです。また、アトリエでの制作に徹するだけでなく、田中邸の周りも見れるようにアーティストを導くとここにいる意味がさらに変わってくると思うんですね。田中邸の窓は曇りガラスで外の風景が生憎見えづらいのですが、そこを開け放つように視線を外に促していく。そのようにして、この空間だからこその表現が創出されていけば面白いんじゃないかなと思います。

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玄関に展示された作品〈障子葉の障子戸〉(左奥)と〈デッキブラシ〉(右)

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〈障子葉の障子戸〉檜、2019

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〈デッキブラシ〉五葉松、2019

椎原:

臼井さんもそうですが、アーティストから田中邸を新たに発見する方法をアートの力で提案してもらっていると感じています。今回臼井さんには家の中をすごく読んでいただいて、デッキブラシとか植物をレースに見立てたカーテンとか、元々そこにあったかのような作品を作っていただきました。また、ここで過ごしていただきながら、「これからやってみようかな」と構想段階だったことに取り組んでいただいて私たちもとても嬉しいです。

私たちは、この建物を活かしたアートマネジメントの次なる一歩を日々考えていますが、日頃管理しているとだんだん新鮮さが失われてしまうというのも本音です。そんな折にアーティストと場所の化学反応を見せていただいたことは非常にありがたかったなと思っています。デンチュウラボのように、皆さんの発想やアイデアをお寄せいただける場として田中邸を活かしていきたいです。

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〈東にかかるカーテン〉名称不明の植物、2019

臼井:

これまで一人で黙々と制作していたんですけれども、でんちゅうずのみなさんや地域の方といった様々な方と触れ合いながら制作を進める体験を初めてさせていただきました。今回の経験を糧に、社会とのつながりを意識しながら色んな人と一緒に企画や展示を作っていきたいです。また、デンチュウラボの応募要項に「まだ形になっていない表現や作品アイデアを試す研究・発表の場です。」と書かれていたことが私を後押ししてくれたように、伴走してくださるでんちゅうずのみなさんのもと、新たな創作を試したり表現にとことん向き合える場として今後も続いていくことを願っています。

DenchuLab.2018 アーティスト | 臼井仁美

臼井 仁美 Hitomi USUI

東京都生まれ。東京都を拠点に活動。
2010年 東京藝術大学大学院美術研究科 修了。
最近の主な展覧会に「レジデンス成果展|行為の編纂」(TOKAS本郷、2018 )。
人と森との関係に焦点を当て、ものを作ることの原点を探りながら、先史には木器時代が存在したことを想像する。
また、人が自然を観察した眼差しとそれらを生活に反映させた営みを、現代の日常において浮かび上がらせる制作を行う。

usui_portrait_web

 

DenchuLab.2018 アーティスト決定!

この度は、多くの方にデンチュウラボにご応募いただき、誠にありがとうございました。
過去最多の応募数で、どれも旧平櫛田中邸に真摯に向き合った魅力的なプランだったため、選考は困難を極めました。

今年度は、審査員による1次審査(書類選考)と二次審査(プレゼンテーション)を経て、臼井仁美さんを選出いたしました。

選考で特にポイントとなったのは、田中邸である必然性や、制作期間・展示期間共に田中邸を有効にご活用いただけるプランかどうかという点です。
多くの方にご関心をお寄せいただき、ありがとうございました。

企画発表は2019年2月22日〜3月3日を予定しております。
制作過程、企画詳細は追ってお知らせいたします。
また、旧平櫛田中邸にどのような光景が広がるのか、妄想が膨らむような過程を順次公開していく予定です。
ぜひお楽しみにお待ちくださいませ。

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DenchuLab(デンチュウラボ)は、日本の近代彫刻を拓いた彫刻家・平櫛田中の旧居兼アトリエである旧平櫛田中邸(きゅうひらくしでんちゅうてい) を、アートを通じて地域・世界の人々と再生し、新たな創作と交流の場として育てていく活動の一環として、アーティストの制作・発表を応援する事業です。

ジャンル・経験不問の新たな表現活動を募集!

スクリーンショット 2015-06-02 21.10.07

旧平櫛田中邸(きゅうひらくしでんちゅうてい)のアトリエを再び、新たな創作・交流の場に。

DenchuLab .(デンチュウラボ)とは、まだ形になっていない表現や作品アイデアを試す研究・発表の場です。上野谷中地域で多彩な活動を展開するでんちゅうずが、日本の近代木工を拓いた彫刻家・平櫛田中の精神を受け継ぎ、あなたの創作をサポートします。DenchuLab.は地域住民の協働・交流を生み出し、地域資源の魅力が旧平櫛田中邸に息づくようなきっかけとなることを目指しています。

旧平櫛田中邸を活かした、作品制作および展示活動企画を募集します。
総額10万円を上限に、制作費を支援します。

募集期間 : 2018年10月31日(水)

[制作期間] 1月 7 日(月)~2月21日(木)
[一般公開期間] 2月22日(金)~3月3日(日 )

▶︎応募要項
▶︎プロポーザル記入用紙.pdf (PDF)
▶︎プロポーザル記入用紙.xlsx (エクセル)
▶︎エントリー用紙.pdf (PDF)
▶︎エントリー用紙.xlsx (エクセル)

《募集内容》

旧平櫛田中邸(きゅうひらくしでんちゅうてい)の空間および、周辺の地域環境を活かした作品制作、展示、活動企画、特定のジャンルにとらわれない表現者の意欲的な活動を募集します。

《採択者数》

若干名

《対象者》

旧平櫛田中邸の空間を活かし、魅力あふれる芸術文化活動を企画・提案する個人及び団体
申請は1組1件までとします。

《対象となる制作・活動企画の条件(A、Bのいずれか)》

A.作品制作及び展示
旧平田中邸におけるリサーチを通じて、建物の新たな魅力を引き出し、空間と呼応した
作品の展示・発表をおこなうもの。
B.活動企画
旧平田中邸を拠点として、制作期間中にワークショップや公開制作の機会を設けるなど、
人と人との新たな関係性を予感させる熱意ある活動。一般公開期間中に何らかのかたちで
発表をおこなうもの。(ライブパフォーマンス、公開制作、ワークショップ、勉 強会など)

[制作期間] 1月 7 日(月)~2月21日(木)
[一般公開期間] 2月22日(金)~3月3日(日 )

《選考委員》

小沢剛(美術家/ 東京芸術大学教授)
熊倉純子(アートプロデューサー /東京藝術大学教授)
椎原晶子(都市環境研究家/NPO たいとう歴史都市研究会理事 長)
富塚絵美(アートディレクター/一般社団法人 谷中のおかって理事)

《審査基準》

(1)実現性  制作体制や実施体制が整っている。活動規模やスケジュールが妥当であること。
(2)独創性 アーティストが独自の表現を追求することの中に、普遍的な価値が見出せること。
他分野との恊働を通じて、芸術の新しい価値創造を目指している。
(3)将来性 長期的展望があり、今後の活躍や発展が期待されること。

《審査のながれ》

提出された必要書類を精査し、一次審査(書類審査)をおこなう。二次審査として、一次審査通過者は選考委員に向けたプレゼンテーションをおこなう。

11月中旬        一次審査   書類審査

11月下旬〜12月上旬   二次審査   プレゼンテーション(※非公開)

12月下旬        結果発表

《主催者によるサポート》

(1)制作・活動費の支援 選考の結果、総額10万円(上限)の支援。
※複数組選ばれた場合、審査員の審議に基き、金額を分配することがある。
(2) 制作・展示場所の提供(旧平田中邸)
(3)地域との連携をサポート
(4)展示・制作会場の提供
(5)展示・発表の広報協力

《会場》

旧平櫛田中邸(東京都台東区上野桜木2-20-3)
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平櫛田中アトリエ棟(大正8年築)

・ 木造
・ 面積=約40㎡
・ 天井高(吹き抜け部分)=5.3m
・ 収容人数上限=30名

▶ 日中安定した自然光を得るため北向きの天窓を完備

住居棟(大正11年築)

・ 木造
・ 1階=台所、茶の間(6畳・4畳)、サンルーム
・ 2階=座敷(10畳)

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▶︎旧平櫛田中邸について  http://taireki.com/hirakushi/

《アクセス》

JR線 日暮里駅南口より徒歩10分
JR線 鶯谷駅北口より徒歩10分
JR線 上野駅公園口より日暮里方面へ徒歩20分
東京メトロ千代田線 根津駅1番出口より徒歩15分

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《応募方法》

下記、必要書類を郵送または、メールにて提出してください。

※メールの場合、2日以内に受領のご連絡をいたします。メールが届かない場合は、お問
合せください。
提出先メールアドレス:dencyu@taireki.com

①エントリー用紙(応募者連絡先、活動歴)

▶︎エントリー用紙.pdf (PDF)
▶︎エントリー用紙.xlsx (エクセル)

②プロポーザル 記入用紙(タイトル・趣旨・具体的なプラン)

▶︎プロポーザル記入用紙.pdf (PDF)
▶︎プロポーザル記入用紙.xlsx (エクセル)

提出先・お問い合わせ

〒110-0002 東京都台東区上野桜木2-20-3
一般社団法人 谷中のおかって DenchuLab.募集係
TEL= 080-4342-8215
MAIL=dencyu@taireki.com
※件名に〈DenchuLab.企画提出〉と明記の上、お送りください。

《応募受付〆切》

2018年10月31日(水) 当日必着

主催:でんちゅうず( NPOたいとう歴史都市研究会、一般社団法人 谷中のおかって)
助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
協力:井原市、平弘子氏、東桜木町会